Sugarless <英二サイド> 冷たい感触、そして体温…。 目の前にはゆっくりと歩いて行くおチビ。 その前にはおチビを誘導するように歩く手塚と不二。 俺の後ろは、吹き抜ける風と暗闇… 俺は… このままおチビを行かせていいの…? 「…!夢、か…。」 凄くリアルな夢を見た。 おチビが手塚や不二と共に、世界へ羽ばたく夢。 俺は…暗闇に沈みながら、その姿を見送る夢。 「…そっか、おチビは海外留学に連れてかれるんだっけ…。」 …俺だけ、定着したまま。 この先に進む事が許されない。 「俺、おチビに酷い事言ったんだもんな…。」 でも、仕方がない。 突き放しておかないと、おチビは幸せになれない…。 俺には…おチビを愛する資格がないから。 「ふぅ…。恋なんて面倒な事…したくなかったな。」 『恋』らしい事は何もせず、自覚する前に自分で終止符を打った感情。 我慢出来ない程の激情の渦に追い立てられながらも、自制した気持ち。 「…俺の馬鹿、臆病者…!」 いつだって愛を信じず、拒否してきた俺。 おチビにも…同じ事をしてしまった。 でも…きっと大丈夫。 「おチビには…不二が居るもんね?…平気、だよね…」 突然、鳴り響く携帯の着メロ。 誰なのかと、表示された名前を確認すると…意外な人物からだった。 「…不二?どしたの?」 「…英二、今から会えないかな。」 「良いけど…。」 「じゃあ、近くの公園で待ってる。」 簡単な会話。 もう二度と話せないと思っていた友人からのメッセージ。 直感的に、凄く大事な用だと解る。 「…行くか…」 部活仕込みの俊足で、公園を目指す。 だって…あの不二が待ってるんだもん。 「不二っ!」 「英二…。」 暫く、俺達の間に流れる沈黙。 気まずいよな、流石に…。 「英二…越前が海外に行く事は知っているでしょ?」 「うん、知ってる…。」 やっぱりその話か…。 「…僕としては、越前を連れて行きたい。そして…大事にしたい。」 「…うん…」 「でも、彼は迷ってるんだ。…今でも、君の事を心の何処かで信じている。」 え…?おチビが…? 俺、あんなに酷い事したのに? 「だから…英二にラストチャンスをあげる。」 「何?それ…?」 「言葉通りだよ。…まだ越前の事が好きなら、僕の前から攫っていって…。」 思い詰めた表情の不二。 俺が…こんな顔をさせちゃってるんだよな。 ゴメンネ、不二…。 「でも…!もし越前に興味が無くなったなら、彼の想いを断ち切ってあげて…!」 「…え?」 「…今の越前には、君への未練がある。越前の事が好きじゃないなら…夢へ向かわせてあげて…?」 「不二…俺……。」 どうすればいい? おチビの想いを断ち切る…? 俺は…まだ……。 「…越前と同様に、君にも3日間という期限をあげる。何も行動しなかったら…このまま越前を連れてくよ。」 「……………。」 「じゃあ…それを伝えたかっただけだから…。」 哀しそうな顔で去って行く不二に、俺は何も言えなかった。 だって、約束出来ない。 『おチビを幸せにしてね』とか『想いを断ち切れば良いんだよね?』なんて…。 だって…俺はまだおチビの事が…。 「未練?そんなの、俺の方だよ…!」 つぅ…と頬を流れる涙に、恋がこんなに苦しいものだという事に初めて気付いた。 「俺は…どうすればいい?」 おチビの未来のために、自分の感情を捨て去るか… 自分の想いを伝えて、『恋』を終わらせてしまうか… 「選べないじゃんかよっ…!」 不自由な選択肢。 どちらを選んでも、お互い幸せな結果にはならないかもしれない。 「…不二…俺にチャンスをくれたの?それとも、罰を与えたの…?」 落ち込んだままでも、不二なら連れて行けただろうに…。 一見、不二が優しさ故にくれたチャンスに見える。 でも… 「この二択じゃ…結果は見えてるじゃん…!!!」 僅かな優しさと、罰則が見え隠れするチャンス。 …疑心暗鬼だなんて最悪だ… 不二は、良い友達だったじゃん。 「今じゃ…過去形、か……。」 今でも親友面なんて図々しい真似はしないけど、一時の関係は信じたい。 …不二は、大事な友人だから… 「俺、答えを出せるかな…?」 きっと、自分の一生を決める選択。 結果によっては…一生後悔する事になるから。 「恋が…もっと簡単なものなら良かったのに…」 どんなに嘆いても、変わりはしない状況。 俺以外の全ての時間が止まったように思える。 「おチビ…何を望んでいるの…?」 こんな卑怯者の俺に…。 何を信じてくれてるの? 「大好きだった…そして愛してる…。」 過去形と現在形が入り混じる言葉。 中途半端な言葉は…まるで俺自身みたいだ。 「待っててね…。」 涙を拭き取り、家へと帰る。 タイムリミット…そんな単語に、客観的な想いを寄せながら… 愛しい者を想いながら… 止まる事なく、歩き続けられるように。 |